2002年12月16日
「おい多美、お前が半休なんて珍しいじゃないか。でも、遊んでる間
に行っちまったぞ、き・り・し・ま。」
 部長はそう言って1枚の写真を手渡した。イージス護衛艦きりしま
の出航シーンだった。
「後悔してるだろ?でももう遅いよ。今頃は海の上、当分帰って来な
いよ〜。な、な、後悔してるだろ???」

 多美麩音男は写真を眺めた瞬間、コートを左手に持って大きく手を
振る自分の姿がどこにあるかわかった。そして、その日の朝のことを
思い出した。

 多美は仲良しの乗員を見送るために半休を取り、前日から横須賀周
辺に宿泊していた。朝の始発が走る頃、既に駅や公園周辺は警備がい
っぱいだった。基地の内部では報道陣が桟橋の手前に集まり始めてい
たので、足早に艦に向かった。艦内は、以前見学した時とさほど変わ
らなかった。ただ、正装している乗員がとても多く感じられた。悲壮
感の漂う乗員は、意外に少なかった。
 多美はいざ乗員に会ってみると、何だかお別れでしんみりするのが
嫌な気がしてきて、世間話や趣味のスポーツの話をして時間をつぶし
た。何の気なしに「女も酒もない艦内で、長い期間つらくないのか?」
と聞いてみた。「そんなもん、ジムもあるし、甲板走りまわって発散
だよ」…そう答える乗員の顔は自信とやる気が漲っていた。多美は変
な質問をしてしまった自分を恥ずかしく思った。
 そして、出航の時間が来た。きりしまは、普段は一つしか掲げない
回答旗をマスト左右に掲げ、吉倉桟橋に集まった大勢の見送りに対し、
最大の謝意を表して岸壁を離れていった。

 その乗員との別れ際のことを思い出した。「じゃあ、帰ってきたら、
ゴルフの打ちっ放しに行こう!」。

(よりによって、コースじゃなくって「打ちっ放し」だなんて…)
 思わず口に出た。
「後悔、してます…」

「そうだろそうだろ、ははははは。まぁ、せいぜい仕事に励みたまえ。
では、ワタクシは会議に出て参ります。」
部長はそう言うとふざけて敬礼をして、多美の肩を叩いて立ち去った。

 そんな部長の言葉は耳に入らなかった。多美は漠然と、仲良しの乗
員が帰って来るまで、「新聞記者として、俺は日本をしっかり守るぞ!」
と思った。


応募    実写部門
使用キット ピットロード1/700 きりしま
      エッチングパーツ(マスト、手摺り、水兵等)
投稿者   タミヤの船ファン